頭脳と体力:自動運転車には、移動の悩みを解決するソフトスキルとハードスキルが必要

自動運転車の未来が人工知能(AI)の大きな進歩を促進し、またそれに依存していることは周知の事実です。しかし、自動運転車に必要なのはAIだけではありません。自動運転車は、ソナー、レーダー、LIDAR(ライダー)、GPSを使用して環境を認識し、進路を決定します。この過程で大量のデータを生成します。

そのデータは、各車両に搭載されたAIにも、さらなる分析を実行するエッジ・データ・センターにも提供される必要があります。したがって、たとえAIが自動運転車の「キモ」だとしても、エッジにおけるデータの管理と保存あるいは次世代の通信技術も同様に重要です(それがニュースの見出しを飾ることはないでしょうが)。

自動運転車に必要なものは?センサー、AI、エッジ・ストレージ、通信…

自動運転車には、どんなツールが必要でしょうか?それはまず、どれだけ「自動」かによって決まります。自動運転車はまだ進化の過程にあり、現時点ではさまざまな「自動化」レベルがあります。

もちろん、今、道路を走っている車の多くはまったく自動ではありません。一部の車には、横滑り防止など、運転者を補助する部分的な制御機能はあります。複数の機能を組み合わせて複雑なタスクを実行する車もあります。たとえば、車線維持とクルーズコントロールの自動調節を組み合わせれば、混雑した高速道路で事故の防止に役立ちます。限定的な自動運転車の場合、一部の状況では車がすべての安全機能を制御しますが、運転者も乗っていていつでも運転を交代できます。70以上の都市レベルの試験プログラムは、運転者がいつでも交代できる形で実施されました。完全な自動運転車はまだ公道を走っていませんが、走るとすれば、人間は目的地を入力して、ナビゲーション設定をすればあとはお任せです。

自動車業界が、限定的および完全な自動運転レベルを実現するには、複数の技術が必要です。

車両はGPSによって現在位置を把握します。GPSデバイスは現在、システムオンチップ(多機能チップ)として提供されています。これには、多くの計算を実行して正確な位置情報を導く専用の処理モジュールが含まれます。これらの計算に入力されるのは、少なくとも4つ以上の低軌道衛星から得たデータです。Linx Technologies F4シリーズのGPSレシーバー・モジュールなど、48種類の衛星信号を追跡できるGPSチップもあります。エッジ・ストレージは車両の走行記録を保存する上で欠かせません。

自動運転車は、車がどこにあるかだけでなく、周囲に何があるかを把握する必要があります。このため複数のカメラで360度方向の情報を取得します。もちろん各カメラは2次元の画像をピクセルの集まりとして生成し、各ピクセルには色と光度を示す数々のデータ座標が必要です。

MITのShadowCamは曲がり角の先を見張り、TrackNetは物体の検出と追跡を同時に実行

AI、特にディープ・ラーニングの進歩は、複数の画像にわたって物体を追跡し人間のポーズを分析するなど、高度な画像分析を可能にしました。MITの研究者がこのほど発表した「ShadowCam」システムは、コンピュータビジョン技術を使い、光度の変化に注目することにより、人間の目には検出が非常に難しいものも含め、地上を動く影を検出および分類します。この技術は、自動運転車が「曲がり角の先を見て」、衝突につながる物体の接近を知る助けになります。

カメラの汚れ、光の弱い環境、視界の悪さは、カメラからのデータの質を下げます。このためLIDAR(Light Detection and Ranging、ライダー)も近距離のデータ収集に使用されます。LIDARは、パルス状のレーザー光を使用して距離の測定と物体の範囲検出を行い、3次元のポイント・クラウドを作成することにより、環境における物体の分析と推測に役立てます。

このような分析は、意思決定の遅れを防ぐために車(オンボード)で実行する必要があります。3Dオブジェクト・マッピングや画像データを複数の常時ストリーミング・カメラから取得し、保存するには、大容量のエッジ・ストレージが必要です。

自動運転車には他の車やエッジ・インフラストラクチャとの相互作用が必要

GPSとビジョン・システムは、自動運転車に近距離環境に関する情報を提供します。1台の車は、やや遠い距離の環境について限られた情報しか収集できません。しかし車両間で情報を共有すれば、各車両が広い範囲の状況を詳しく把握できます。V2V(車車間)通信システムは、同じ地域にいる車との間にアドホックのメッシュ・ネットワークを作成します。V2Vは、情報の共有、および近くの車への接近警報などの信号送信に使用されます。

交通信号など、近くの交通インフラストラクチャとの通信にも応用可能です。その場合は、V2I(車インフラ間)通信と呼ばれます。V2I規格は、開発の早期段階にあります。米国では、この技術の進歩を促すため、連邦高速道路局(FHWA)がV2Iに関する助言を発行しました。FHWA長官代理のグレゴリー・ナドウ(Gregory Nadeau)氏は、V2Iの利点は安全だけではなく「安全性を高めることに加え、車とインフラストラクチャを結ぶ通信技術の向上は、移動と環境に多大なメリットをもたらす」と述べています。

長距離通信は、5G移動通信システムを利用することが増えています。5Gは、1ミリ秒の遅延で最大300メガビット/秒(Mbit/s)の帯域幅を提供します。Huaweiはこのほど自動運転車専用の5Gコンポーネントを発表しました

何千エクサバイトものエッジ・データ管理を処理するには

データの管理と保存は、完全な自動運転車の実現に向けた大きな課題です。自動運転車は、1台で1日5~20TBのデータを生成します。米国だけでも、現在、2億7,200万台の車が走っています。すべて自動運転車になれば、米国だけで1日5,449,600,000TB(5,449エクサバイト)ものデータが取得されることになります。このデータを取得するには、高性能、柔軟性、拡張性、セキュリティを備えたエッジ・ストレージ・インフラストラクチャが必須となるでしょう。データを管理し、できるだけ大きな価値を引き出すには、高度なデータ・オーケストレーション機能が必要です。

AIによるリアルタイムの意思決定には最新の情報が必要です。1時間前の車の位置や速度などの履歴情報は、通常、オンボードAIにとって重要ではありません。しかし、車の設計者、あるいは自動運転や安全に携わるエンジニアにとっては有益な情報です。AIエンジニアは、カメラが捉えた物体や動きの分類、LIDARデータの物体の特定と分析、環境データとインフラストラクチャ・データの最適な組み合わせによる意思決定を行うための機械学習モデルを、大量のデータでトレーニングします。安全エンジニアは、事故の直前または事故になりかけた車から収集したデータに特に関心を持ちます。この分野でも、エッジでのデータ管理が、自動運転車の開発と導入に大きく貢献します。

自動運転車が生成、収集したデータは、車からエッジ・データ・センターに移動し、最終的にはオンプレミスとクラウドのデータ・センターにも送信されます。そしてこの大量のデータを有効に、かつ効率的に利用するには、最適化された階層型ストレージ・アーキテクチャが必要です。取得したデータをすぐに分析し、理解して、機械学習モデルの構築に利用するには、高いスループットと低い遅延が必要となります。高速アクセスのSSDや性能を強化するマルチアクチュエーター技術を装備した大容量のHAMRドライブを搭載したストレージ・システムで管理する必要があるでしょう。

分析の大半が完了した後も、データにはアクセス可能ですが、大容量で低コストの従来型ニアライン・ストレージに効率的に保存すればよいでしょう。ニアライン・ストレージは、近い将来に必要となるデータもあるかもしれないが、ほとんどは頻繁にアクセスされない場合に適しています。アクセスはされないが、コンプライアンスや他の事業上の理由で保存する古いデータは、アーカイブ階層に移動します。

自動運転車は、人工知能、コミュニケーション、ストレージのレベルを引き上げつつあります。この3つの技術のすべてが完全な自動運転車という目標の達成に欠かせません。エッジにおけるデータの役割については、「自動運転車の安全を守るのはエッジのデータだけ」、「5GがエッジのAIを実現 ― ITインフラが追いつけば」、「エッジのデータ:いかに新しいITアーキテクチャを構築するか」など、関連記事をご覧ください。

 

2020-04-28T05:00:43+00:00

About the Author:

Leave A Comment