人工知能 (AI)

スマートシティの公共安全対策を強化するAIの力

監視技術によって公共安全を強化するスマートシティの仕組みをご紹介します。

目次

都市化の流れによって、世界中の人々の暮らしは変化を続けます。世界中で多くの人たちが地方から都市部に移動し、農地は宅地へと開発されていきます。かつては小規模だった町も大都市へと変貌を遂げています。こうした変化に伴って商業的な開発や協力、経済成長が進む一方で、都市の過密状態、犯罪率の上昇、ゴミの増加といった問題も生じています。中でも特に問題視されるのが、公共安全に対する脅威です。

公共安全の重要性

2015年、International Development Research Centre(国際開発研究センター、IDRC)は世界中の研究者らに対し、「都市の安全性を形作る要素とは何か」という疑問を投げかけました。 コンゴ民主共和国の代表者は、安全な都市とは「人々が自分の可能性を最大限に発揮する機会に恵まれ、平和な暮らしの中で自由に活動ができる場所である」と述べています。さらに、インドの代表者は「日々恐怖を感じるような生活は、実際に起こる暴力事件などよりも不安定要素をもたらすことがある」と付け加えています。[1]

こうした研究を受けて、地域社会は身体的な安全が約束されない限り総じて前へ進めないことが明らかになっています。つまり、「安全」とは身体的に安全であるということだけでなく、心理的および社会経済的な要因も含む概念であり、都市開発におけるあらゆる側面の基礎なのです。この点を踏まえて考えると、2017年に162億ドル前後であった世界のセーフシティ(都市の安全対策)市場が、IHS Markitの推計によると2022年には296億ドル規模までほぼ倍増するとされているのもうなずけます。[2]

このような議論をもとに、狭い視野ではなく包括的な視点から都市インフラに取り組もうとする流れが活発化してきました。その結果生まれた概念のひとつが「スマートシティ」です。セーフシティ(安全な都市)は安全性とセキュリティに重点を置いていますが、スマートシティはその解釈をさらに大きく捉え、かつてはそれほど重視されていなかった効率性、包括性、サステナビリティという目標にまで裾野を広げています。

スマートシティは、デバイス同士をつなげることで、もっと広い意味で市民の暮らしを充実させることを重視しています。低電力センサー、ワイヤレス・ネットワーク、さらにはモノのインターネット (IoT) を活用したインテリジェント分析を組み合わせ、そこから得られた情報をもとに、公共安全から交通、エネルギー、水道、廃棄物管理に至るまでのあらゆる都市生活を最適化します。より包括的な取り組みとしてスマートシティが、セーフシティの概念を補完していると言えます。IDCの予測によると、スマートシティへの支出額は、2023年までに世界全体で1,895億ドルに達し3、2015年の148億5,000万ドルから飛躍的に増加するとされています。

スマート・ソリューションがもたらす影響

2018年年の報告書「Smart Cities: Digital Solutions for a More Livable Future」(スマートシティ:より暮らしやすい未来のためのデジタル・ソリューション)の中で、McKinsey Global Instituteは、「都市が抱える問題に対処するためスマートシティで高度な技術を採用した場合にどのような影響が生じるのか」について評価しています。それによると、スマートシティは、社会的なつながりや市民参加、雇用率、生活費をはじめとする生活の質の面で、かつての予想以上に好ましい影響をもたらすとされています。特に公衆衛生と公共安全に関しては、初期の段階でも、スマートシティによって死亡率が8%~10%低下し、緊急対応に要する時間が20%~35%短縮され、疾患による負担が8%~15%軽減して、温室効果ガスの排出量が10%~15%減少すると算定されており、スマートシティはリソースが豊富なだけでなく、サステナビリティの点でも優れていることがわかります。[4]

スマート・ソリューションがもたらす影響は明らかです。公共安全を司る警察や救急などの組織では、早くからこうしたインテリジェント・ソリューションを導入してきました。様々なセンサーを活用することで、犯罪捜査やその他の公共安全対策に欠かせないビデオとデータを収集しています。このような最先端技術には、高解像度の4K、さらには7Kの監視カメラ、マルチセンサー搭載のパンチルトズーム (PTZ) カメラ、そして事件管理と対応を効率化するための業界屈指のビデオ管理システム (VMS) などがあります。こうしたソリューションの中核を成すのは、人工知能 (AI) のひとつであるビデオ解析です。この技術を使うことで、公共安全の担当者は初期段階の脅威を正確に察知し、リアルタイムで対応することができます。

AIによる監視業務の効率化

過去数十年もの間、警察は街の一部地域を監視するために監視カメラを使用してきました。制御室では、複数台のカメラから送られてくる映像が壁一面のモニタに映し出され、担当者は絶えずその映像を見守っていました。事件を察知できるかどうかは担当者次第であるため、ビデオ監視は担当者の集中力が続く間でしかその効力を発揮しませんでした。また、膨大な量の録画データを人の目で確認する作業には何時間もかかるという問題もありました。こうしたことから、警察の犯罪捜査と証拠収集の効率性には限界がありました。

現代のスマートシティでは、状況は大きく異なります。この変化を裏で支えているのがAIです。テクノロジーは警察官の仕事を日々支え、効率よく任務をこなせるようサポートしています。インテリジェントなビデオ解析では、正常な行動と異常な行動を正しく見分けられるよう学習させていくことで、警察官が直接確認すべき映像だけをピックアップしていきます。これにより、数時間かかる作業が数分に短縮され、従来の録画作業が生産性を向上するツールへと生まれ変わります。これらのシステムの背後にある論理は、担当者が重大なイベントをより速くに認識できれば、より迅速に行動することができる、というものです。ビデオ解析は、最も重要な情報のみに人の注意を向けさせ、重要な事象と解析データにすばやく関心を集めることで、一刻を争う緊急事態に対応するまでの時間を短縮します。

ビデオ監視の実例

目的に応じて解析の種類は異なります。Motorola Solutionsのビデオ・セキュリティおよび解析サービスは、スマート・ビデオ・ソリューションの最前線に立ち、公共安全機関が重大な事象を察知、確認して、それに対応できるよう支援しています。例えば、Avigilon Appearance Search技術を使うと、警備担当者や警察官は大量の録画データをくまなくチェックし、不審者や不審車両をすばやく特定することができます。このソフトウェアは、性別や衣服の色といった物理的な特徴をもとにエリア全域から送られてくる映像を解析します。現場の担当者はそうした解析データから、捜査に欠かせない「誰が、いつ、どこで、何をしたか」という貴重な情報を得ることができます。

Unusual Motion Detection (UMD) は、AIの機械学習機能を取り入れて、特定の場面で見られる典型的な行動を絶えず観察しコード化することで、そうした基準からの逸脱を察知するための技術です。この機能によって、本来ならば警察官が気づかないような事象をリアルタイムで把握できるようになるだけでなく、即時に警告を発し、このような分析機能を備えた監視ソリューションをさらなる自動化につなげることで応答時間を大幅に短縮することができます。あらかじめ決められたルールや構成要素も持たないこの技術では、自己学習型のビデオ解析技術の真の可能性を引き出しています。

代表例の紹介

Motorola Solutionsのビデオ・セキュリティ技術では、スマートシティにおける警察の容疑者の検挙率アップが期待できる可能性があります。例えば、容疑者がパトカーによる追跡から逃れるために盗難車で現場から逃走したとします。従来の監視カメラでは、容疑者は付近の監視カメラの前を走り去り、あっという間にその視野から消えてしまうため、リアルタイムの追跡には使えません。一方、Avigilonの自己学習型ビデオ解析およびUMD技術を搭載したAvigilon H4Aカメラを街中に設置しておくと、コマンド・センターでAvigilon Control Center (ACC) 7ビデオ管理ソフトウェアを遠隔操作しているアナリストは、街全体の中からその盗難車をすばやく見つけ、監視することができます。

Avigilon Appearance Search技術を使えば、制御室にいながら、数百台ものH4Aカメラの映像を調べ、逃走する容疑者の最新の画像と現在位置を特定することが可能です。また、UMD技術は、例えば道で突如急ハンドルを切ったり、反対車線を走ったりといった、容疑者による予期せぬ行動も察知します。

Avigilonカメラからは、容疑者の現在位置(例えば、容疑者が通過した交差点など)に関する警告がコマンド・センターの担当者に随時通知されるため、警察は容疑者が次にどこへ向かうのかを予測することができます。Avigilonのビデオ技術を緊急対応デバイス(Motorola Solutionsの無線機など)に取り入れることで、制御室では容疑者の居場所に関するリアルタイムの情報を共有し、特定の道路にパトカーを急行させて道を封鎖することもできます。

容疑者を逮捕した後は、Seagate Technologyのハードディスク・ドライブを搭載したAvigilon Third Generation High Definition Video Appliance (HDVA) を使えば、録画データを最善の状態で保管し、後で確認したり、訴追手続きで使用したりすることが可能です。この機器を使用すると、録画データの処理、ビデオのストリーミングおよび再生を簡略化でき、エッジ・デバイスや中央指令室とのデータ転送が即座に完了します。つまり、Avigilonのデバイスを導入することで、公共安全機関は、緊急通報が入った瞬間から事件が解決する時点までの全体をカバーするソリューションを手にすることができるのです。

ビデオおよびAIソリューションを裏で支える技術

これまで述べてきたように、リアルタイムのデータは大きな力を秘めています。しかし、数百台のHDカメラと監視用AIに対応できる適切なインフラがなければ、スマート監視システムは成り立ちません。警備担当者や警察官は、インテリジェントなビデオ・ソリューションからリアルタイムの解析データを得たいと考えていますが、コマ落ちやデータロスなどの問題が生じると、ディープ・ラーニングと予測分析は正常に機能しません。こうした理由から、警備会社や公共安全機関は、データ・ストレージ分野のリーダーであるSeagate Technologyに目を向け、スマートシティとAIに代表されるこの新時代に合わせてストレージ・システムのアップグレードを図っています。

効果的なデータ管理に欠かせないストレージの要件

データ管理に関して、公共安全機関と地方自治体の関係者が留意すべき事項がいくつかあります。第一に、警察と警備会社の関係者は、クラウド・コンピューティングのみに頼るやり方はもはや賢明ではないことを理解することが大切です。クラウド・コンピューティングは、数ペタバイト単位のデータをディープ・ラーニングのために集約するという意味では適した方法ですが、現場からデータを求められた場合に転送と分析に遅れが生じる可能性があります。ベスト・プラクティスとして、これらの機関はクラウド・コンピューティング・ソリューションに加えて、エッジ・コンピューティング・デバイスを導入する必要があります。これは、ストレージ分野のリーダーがIT 4.0と呼ぶ戦略です。AI対応のNVRをエッジで利用することで、データが最初にキャプチャされた場所に近い場所でデータ分析が行われ、インサイトを提供するまでにかかる時間が短縮されます。

第二に、高解像度のデータ・ストリームに対応した戦略が不可欠です。ACC 7などの高度なビデオ管理ソフトウェアは、High Definition Stream Management (HDSM) 技術を採用することで、映像を細部までくっきりと表示する一方で、使用帯域幅を最小限に抑えています。ACCソフトウェアは、帯域幅を管理するためにビデオを圧縮してマルチストリーミングを使用する代わりに、HDSMを採用してビデオ・データを効果的に整理し、ネットワーク全体の負荷を軽減します。閲覧状況に応じてコンテンツに優先順位を付けることで、まずは情報を低解像度の小さなパケット・サイズで保管しておき、ユーザーがカメラのストリームを閲覧する時点で画像のサイズと解像度を高めて、細部まではっきりと確認できるようにします。これにより、サーバーとクライアントとの間を行き来する情報の量が劇的に減少します。

第三に、公共安全機関は、ビデオ機器およびNVRで使用している一般的なハードディスク・ドライブをSeagate® SkyHawkやSkyHawk AIのような監視専用のハードディスク・ドライブに交換すべきであるという点です。一般的なハードディスク・ドライブは、データの収集とアーカイブを目的に設計されており、書込み専用能力が特徴で、週5日各8時間の作業負荷にしか対応していません。ビデオ監視とAIによってデータの有用性が変わりつつある現代社会では、一般的なハードディスク・ドライブはもはや性能的に不十分なのです。警察や警備会社では、大量に発生するデータに対応するため、ストレージ・システムにSkyHawkドライブを採用するとよいでしょう。SkyHawkシリーズは膨大な量の読取りと書込みの作業負荷に対応し、週7日24時間態勢の稼働にも耐える耐久性が特長です。また、クラス最大のストレージ容量を誇り、最大16TBの容量に最長10,000時間分のビデオを保管することができます。

集中管理しているストレージ・システムを公共安全対策の強化に伴って拡張する必要がある場合は、Seagate Exos®ハードディスク・ドライブを搭載したサーバーを導入することで、数千台のカメラから送られてくる数ペタバイト単位のデータを管理し、Seagate Secureのサイバーセキュリティ機能を使って万全の体制で保護することが可能です。Seagate Nytro®ソリッド・ステート・ドライブ搭載のサーバーなら、ホットデータを使用する用途に応えるスピードと性能を備えています。信頼性に優れたSeagateのハードディスク・ドライブ製品を使用すれば、公共安全機関は録画データの処理をすばやく改善し、その信頼性を高めることができます。

最後になりますが、Seagate Data Recovery Services(データ復旧サービス)をはじめとする付加的なデータ保護対策の導入もおすすめします。そうすることで、たとえ予期せぬ事態が起こっても、データを復元できるという安心感が得られます。

スマートシティの未来

現在、データの重要性はかつてないほど高まっています。これこそが世界中のテクノロジー、情報および通信システムを動かす原動力であり、今ではスマートシティの公共安全に革命をもたらすビデオ監視の世界を大きく変えようとしています。この変革を中心となって支えているのが、IoTエコシステムの一部に位置付けられているインテリジェントな監視システムです。この技術の到来により地方自治体は、より良い市民生活を実現するための都市のあり方を再考するよう迫られています。こうしたシステムにおいて最も重要なのは、データの管理、維持、有効活用を後押しする強力で信頼性に優れたストレージ技術の存在です。

このような構成要素のひとつひとつが相互に不可欠な役割を果たしています。都市がデータを活用して犯罪と闘い、サステナビリティを主張し、それに携わる様々な関係者の業務向上を実現できるようになった現代社会では、スマートシティがビデオおよびストレージの大手メーカーと手を取り合い、そんな世界の実現に向けて努力することが不可欠なのです。