AIにおけるチェックポイント処理
ハードディスク・ドライブは、透明性があり追跡可能なトレーニングのマイルストーンを保存することで、AIの信頼性をサポートします。
人工知能 (AI) は急速に進化を遂げ、医療から金融、そしてそれ以外のさまざまなセクターで不可欠な役割を果たすようになりました。AIの成功の中核は、膨大なデータセットを処理して信頼性の高い結果を生成する能力です。
勝ち組の企業がAIの使用を検討しているか、すでに使用しているは当然の流れです。しかしこうした企業が重視しているのは、AIを導入することだけではありません。彼らは信頼性の高いAIモデル、プロセス、結果を追及しています。つまり、信頼性の高いAIを必要としているのです。
AIモデルの開発を可能にする重要なプロセスの1つは、チェックポイント処理です。この入門書では、チェックポイント処理とは何か、チェックポイント処理はAIワークロードにどのように適合するか、そしてなぜチェックポイント処理が信頼性の高いAI(信頼できる入力を使用し、信頼できるインサイトを生成するAIデータワークフロー)の構築に不可欠であるかについて説明します。
チェックポイント処理とは、AIモデルの学習中に、特定の短い間隔でAIモデルの状態を保存するプロセスです。AIモデルには、数分から数か月かかる反復的なプロセスを通じて、大規模なデータセットを用いてトレーニングが行われます。モデルの学習期間は、モデルの複雑さ、データセットの規模、利用可能な計算能力によって決まります。学習期間中は、モデルにデータが供給され、パラメーターが調整され、システムは処理する情報に基づいて結果を予測する方法を学習します。
チェックポイントは、トレーニング中の多くのポイントにおける、モデルのその時点での状態(データ、パラメーター、設定)のスナップショットのような役割を果たします。1分から数分ごとにストレージ・デバイスに保存されるスナップショットにより、開発者はモデルの進行記録を保持することが可能になり、予期せぬ中断による貴重な学習の損失を避けることができます。
AIアプリケーションは従来のデータ・センターの域を超えて拡張されているため、大容量と高性能の両方を必要とします。クラウドとオンプレミスのどちらにあろうと、AIワークフローは、大容量と高性能の両方を提供するストレージ・ソリューションに依存します。大容量と高性能はともに、チェックポイント処理をサポートするために極めて重要な要素です。
AIデータ・センターでは、GPU、中央演算処理装置 (CPU)、Tensor Processing Unit (TPU) などのプロセッサーが高性能メモリやソリッドステート・ドライブ (SSD) と緊密に結合され、強力な計算エンジンを形成しています。これらの構成によって、トレーニングに伴う重いデータ負荷が管理されます。また、モデルの進行に合わせてリアルタイムでチェックポイントを保存するために必要な迅速なアクセスが提供されます。
データがこれらのシステムを流れる際に、チェックポイントやその他の重要情報は、ネットワーク化されたストレージ・クラスタまたはオブジェクト・ストアに保持されます。主に大容量のハードディスク・ドライブ上に構築されているこれらのクラスタは、確実に長期にわたってチェックポイントを保存するとともに、拡張性とコンプライアンス両方のニーズをサポートします。この階層型ストレージ・インフラストラクチャによって、チェックポイント処理は効率的に機能するようになり、迅速なアクセスと長期的なデータ保持のバランスが保たれます。
チェックポイント処理は、通常はトレーニング・ジョブの複雑さや必要性に応じて、1分から数分ごとまでの一定の間隔で発生します。
一般的には、SSDに約1分ごとにチェックポイントが書き込まれます。SSDは高速書込み性能を備えているため、アクティブなトレーニング中に素早くデータにアクセスできます。SSDは長期の大容量ストレージとしてはコスト効率が悪いため、新しいチェックポイントは以前のチェックポイントを上書きすることで容量を管理します。
AIトレーニング・ジョブは長期間にわたって大量のデータを生成することが多いため、大容量ストレージが不可欠です。例えば、AI開発者が約5分ごとにチェックポイントをハードディスク・ドライブに保存するとします。ハードディスク・ドライブは、大量のチェックポイント・データを長期にわたって確実に保持する上で重要な役割を果たします。SSDと比較してTBあたりのコストが平均で6分の1のハードディスク・ドライブは、最も拡張性が高く、経済的なソリューションのため、AIの信頼性確保のために必要な大規模データ保持できる唯一の実用的な選択肢です。
さらに、フラッシュ・メモリのセルの摩耗のために頻繁な書込みサイクルで劣化してしまうSSDとは異なり、ハードディスク・ドライブでは整合性を失うことなく連続使用に耐えられる磁気ストレージが使用されています。この耐久性のおかげで、ハードディスク・ドライブは長期にわたってデータの信頼性を維持できるため、組織はチェックポイントを無期限に保持し、モデルの展開後でも過去のトレーニング実行の見直しや分析を行うことが可能になり、堅牢なAI開発とコンプライアンスのニーズに対応できます。
AI開発は、しばしばAI無限ループと呼ばれる循環プロセスとして理解されます。AI無限ループでは、データ・ソーシング、モデル・トレーニング、コンテンツ作成、コンテンツ保存、データ保存、再利用といったさまざまなステージ間の継続的な相互作用が重視されます。このサイクルによって、AIシステムは時間の経過とともに反復的に改善されていきます。このループでは、データがAIモデルに供給され、1つのステージにおける出力が後続ステージの入力となるため、モデルの継続的かつ反復的な改良につながります。
このプロセスの開始点はソース・データです。これは未加工のデータセットが収集され、トレーニング用に準備されたものです。ソーシングされたデータは、モデルのトレーニングに使用され、トレーニング中にチェックポイント処理が行われます。前述のように、チェックポイントはモデルのトレーニング中の保護策として機能します。AI開発者は進行を保存し、中断による学習の損失を回避し、モデル開発を最適化することができます。トレーニングされたモデルは、コンテンツの作成に使用され、イメージの生成やテキスト分析といった推論タスクなどを実行します。その出力は、将来の使用、コンプライアンス、品質保証の目的で保存されます。その後このデータは、AIモデルの次の反復プロセスにフィードされるために保持され、再利用されます。
この無限ループでは、チェックポイント処理は特にモデルのトレーニング段階で不可欠な要素です。モデルの状態を保存し、ループ全体を通してデータを保持することで、サイクルを重ねるごとにAIシステムの確実性、透明性、信頼性を高めることができます。
AIシステムは膨大な量のストレージを必要とします。そしてモデルの大規模化や複雑化が進むほど、拡張性とコスト効率の高いストレージのニーズが高まります。ハードディスク・ドライブは、複数の理由から、特にデータ・センター・アーキテクチャ内でAIチェックポイント・ストレージのバックボーンとして機能しています。
前述のように、一部のAIワークロードでは、チェックポイントは1分ごとにSSDに書き込まれますが、長期保存のためにハードディスク・ドライブにプッシュされるのは5個につき1個のチェックポイントのみです。このハイブリッド・アプローチによって、スピードとストレージ効率両方が最適化されます。SSDが即座のパフォーマンスのニーズに対応し、ハードディスク・ドライブがコンプライアンス、透明性、長期分析に必要なデータを保持します。
AI開発という広範な状況において、チェックポイントの役割は、AIの出力の正当性を保証する上で極めて重要です。「信頼性の高いAI」とは、正確で効率的であるだけでなく、透明性があり、説明責任が確保され、説明可能なシステムを構築する能力を指します。AIモデルは、信頼性が高く、かつその出力を正当化できるものでなければなりません。
最終的に、チェックポイントは、AI開発者が「自分たちの作業を明らかにできる」メカニズムを提供します。トレーニング・プロセス全体を通して多数のポイントでモデルの状態を保存するチェックポイントにより、どのように決定が行われたかを追跡し、モデルのデータとパラメーターの整合性を検証し、修正が必要な潜在的な問題や非効率性を特定することができます。
さらにチェックポイントは、AIシステムが監査可能であることを保証するため、信頼の構築にも貢献します。現在も将来も、規制の枠組みにより、AIシステムには説明可能であること、その意思決定プロセスには追跡可能であることが要求されます。モデルのトレーニング・プロセス、データ・ソース、開発パスに関する詳細な記録を保存するチェックポイントによって、組織はこうした要求に応えることができます。
チェックポイント処理は、AIワークロードに不可欠であり、トレーニング・ジョブの保護、モデルの最適化、透明性と信頼性の確保において重要な役割を果たします。AIが進歩を続け、各業種の意思決定に影響を及ぼしていることから、拡張性とコスト効率の高いストレージ・ソリューションに対するニーズはかつてないほど高まっています。ハードディスク・ドライブは、チェックポイント処理プロセスを支える中心的役割を果たしており、組織はハードディスク・ドライブを使用することで、AIモデルのトレーニング中に生成される膨大な量のデータを保存し、データにアクセスして分析することができます。
AI開発者は、チェックポイント処理を活用することによって、効率的なだけでなく、信頼できるモデルを構築することができるのです。